腎性貧血の経口での治療薬 HIF-PH阻害薬
腎臓が悪くてそもそも貧血になるの?
腎臓は、尿を作るだけの臓器ではありません。
腎臓では、赤血球の産生を促す「エリスロポエチン」というホルモンを作っています。腎臓のはたらきが悪くなるとエリスロポエチンが不足し、必要な赤血球が作られないため貧血になります。
貧血になるとどうなるの?
貧血になることによって、めまいや息切れなどの一般的な貧血の症状に悩まされることもあります。
また、透析をしていない腎不全の患者さんでは、貧血があることによって末期腎不全のリスクになることが言われています(Nephrol Dial Transplant. 2006 Feb;21(2):370-7. Epub 2005 Oct 25. )。
貧血はどのくらいの値まで治療をすればいいの?
Hb 10~11.5 g/dLを目標に治療することが推奨されています。
Hb 11.5~13 g/dLの範囲に若い人など個別化でおこなう事はありますが、現時点では明確な有効性は言われていません。
どんな治療をすればいいの?
腎性貧血の治療としては、注射製剤と今回お話しする経口薬があります。
腎性貧血に関しては、除外診断になるので消化管出血の有無・悪性腫瘍の有無・鉄欠乏性貧血の有無などは、事前に検査をすることが重要になります。
HIF-PH阻害薬ってそもそも何?どのように働くのか?
HIF-PHとは、低酸素誘導因子(HIF)-プロリン水酸化酵素含有タンパク質(PH)の略になります。
HIFとは、細胞への酸素供給が不足すると産生される転写因子です。
HIFは通常PHによってすぐ分解されてしまいます。
HIF-PH阻害薬はHIF-PHを阻害することで、HIFの分解を抑制し、エリスロポエチンの産生を増やすことができます。
どんなお薬が使えるのか?
現在、5種類のHIF-PH阻害薬を使用することができます。
HIF-PH阻害薬により、赤血球の材料となる鉄を効率よく利用するので鉄剤を併用して内服していただく場合が多いです。
使用する前に注意すること?
内服する際に、悪性腫瘍の発生率の上昇、高血圧、血栓塞栓症が言われています。高血圧と血栓塞栓症に関しては、Hb改善に伴う影響を考えるので、Hbが上がりすぎないように注意する必要があります。慢性腎不全患者さんでは、悪性腫瘍発生率も上がるため、悪性腫瘍スクリーニングは重要になります。
外来でも相談しながら必要に応じて治療を開始できればと思います。
*この仕組みを解明されたジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ教授、オックスフォード大学のラトクリフ教授、ハーバード大学のケーリン教授が2019年ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。*
文責:腎臓専門医 宮内